第96章

葉田知世は振り返り、藤原羽里を見上げた。

化粧をしておらず、顔にはまだ治りきらない痣が残り、唇は乾燥して小さく裂けている。照明のせいか、その瞳は異常なほど澄み切っていた。

『傷だらけの美人』という言葉が藤原羽里の脳裏に浮かび、彼は突如として彼女に口づけたくなった。

「いつからいたの」と彼女は尋ねた。

「少し前からだ」彼は己の心に従い、身を屈めて彼女にキスをした。

秋の空は乾燥しており、葉田知世の唇はざらついた感触で、藤原羽里のそれをくすぐった。

もともとは軽く触れるだけで終わらせるつもりだったが、もはや止められなくなっていた。

キスをされて頭がくらくらした葉田知世は、無意識に藤...

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