第98章

「藤原羽里ほどの実力者が、車一台しか持っていないとでも?」

十億のピンクダイヤモンドをぽんとプレゼントしておきながら、葉田知世を歩いて山を下らせるなんてことがあるだろうか?

「車はたくさんありますけど、彼のものを勝手に使いたくはないんです」

葉田知世は正直にそう言った。どういうわけか、木村拓也とは今日まで四度しか会っていないのに、心のどこかで特別な親近感を覚えていた。つい身内のように感じてしまい、話すときも警戒心が緩んでしまう。

木村拓也は前方の道路状況に視線を注いだまま、彼女を見ずに言った。「君たちは夫婦だろう。彼が持つすべてを使う権利がある。金、権力、人脈、君が望むなら、それらは...

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