第5章

翌日の午後二時、私が音楽教室でレッスンの準備をしていると、不意に受付の女性の興奮したような悲鳴が聞こえてきた。

「きゃあ!あの人、すっごく素敵!しかも高級車に乗ってる!」

訝しく思って顔を出すと、私は完全に度肝を抜かれる光景を目の当たりにした。

L市を震撼させるIT界の帝王――西園寺律崎が、平然な態度で受付カウンターに立ち、丁寧に生徒の登録用紙に記入していたのだ。

本当に来たんだ!

けれど、すぐに複雑な感情の波が押し寄せてきた。これはただの衝動的な決断なんじゃないだろうか?昨夜のことは彼にとってただの過ちで、冷静になったら後悔するんじゃないだろうか?

「ピアノレッスンに...

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