偽りの夫婦、本当の愛

偽りの夫婦、本当の愛

月見光 · 連載中 · 488.2k 文字

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紹介

彼女は美しく、そして嘘くさい女だった。
彼は、彼女が口にする安っぽい誘い文句を、心の底から軽蔑していた。

だがある日、彼女はぱったりと彼を誘わなくなった。
すると彼は、彼女を腕の中に閉じ込めた。

「俺を誘ってみろ」
「命だってくれてやる」

彼は常に克己復礼を体現してきた男。
――彼女と出会い、その理性を失うまでは。

チャプター 1

ドアが開いた瞬間、ソファの上で重なり合う二つの体を見て、鈴木莉緒の頭は真っ白になった。

ここへ来るまでの道中、彼女はずっと想像していた。突然、河野辰哉の家に現れて、二年間の遠距離恋愛がついに終わったと告げたら、彼はきっとすごく驚いて喜んでくれるだろうと。

まさか、目に飛び込んでくるのがこんなにも見るに堪えない光景だとは、思いもしなかった。

彼女は拳を握りしめる。ソファの上の二人はあまりにも夢中で、彼女の存在に気づきもしない。

込み上げてくる吐き気を必死に堪え、彼女はスマートフォンを取り出し、録画モードを起動した。

二人が体勢を変えた時、女の方がようやく鈴木莉緒に気づき、悲鳴を上げた。

河野辰哉も驚き、慌てて毛布を引き寄せて体に巻き付け、女を自分の背後に隠した。

「なんで帰ってきたんだ? 何してんだよ!」

鈴木莉緒は目を赤くしながら言った。「こんなに素晴らしい一幕、もちろん記録してSNSにアップするためよ」

その言葉を聞いた河野辰哉は、背後の女が一糸まとわぬ姿であることも構わず、毛布を自分に巻き付けて床に降り、鈴木莉緒のスマホを奪おうと向かってきた。

「それ以上一歩でも近づいたら、一斉送信するから」鈴木莉緒は脅す。

河野辰哉は全く信じていない様子で、さらに前に進む。

鈴木莉緒はためらわず一斉送信ボタンを押した。

河野辰哉は衝撃を受けた。

いつもは優しくて物分かりのいい女が、まさかここまで非情なことをするなんて!

「鈴木莉緒、死にてえのか!」河野辰哉は怒りのあまり額に青筋を立て、鈴木莉緒を殺さんばかりの形相だった。

鈴木莉緒はスマホを掲げる。画面にはすでに110の番号が表示されていた。「警察に通報したわ」

河野辰哉は目を大きく見開き、言葉を失った。「お前……」

情け容赦なく、冷酷極まりない鈴木莉緒の様子を見て、河野辰哉は彼女を指差した。「いいだろう、お前の勝ちだ!」

鈴木莉緒の両目は冷え切っていた。「二年間、犬に餌でもやってたと思うことにする。いいえ、あなたは犬以下よ」

河野辰哉の家を出て、鈴木莉緒は親友の浅野静香の家へ向かった。

浅野静香の家で五日間過ごす間、浅野静香は五日間ずっと河野辰哉を罵り続けた。

その日の朝、鈴木莉緒がスマホを見ながら落ち込んでいるのに気づいた浅野静香は、彼女に寄り添って抱きしめた。「あんなクズ男のために、悲しむ価値なんてないわよ」

鈴木莉緒は首を振る。「もうとっくに悲しくなんてない。ただ、鈴木康平が持ってきた縁談、受けるかどうか迷ってるだけ」

「何ですって?」

鈴木莉緒の父親が縁談を持ってきたのだ。早く帰ってきて話を聞けと、ずっと催促されていた。

相手の家柄は良く、背が高くてハンサム、しかも一人息子だという。

彼女が結婚に同意さえすれば、相手の家は八桁の結納金を払い、二ヶ月以内に妊娠すれば二十億円の報奨金、そして男女問わず子供を一人でも産めば、その家の若奥様として、数え切れないほどの財産を手にすることができる、と。

浅野静香はそれを聞くと手を叩き、鼻で笑った。「それって、あんたのあの継母の差し金でしょ。本当にそんな美味しい話があるなら、自分の娘を嫁がせないわけないじゃない。どうせとんでもない落とし穴よ」

「何か内情を知ってるの?」

「言ってることは本当よ。でも、肝心な一言が隠されてる」

「うん?」

浅野静香は言った。「その人の名前は森遥人。確かに顔も良くてお金もあって実力もある。昔は九星市の女たちがみんな彼に嫁ぎたがって、嫁げなくても一夜を共にしたいってくらいだったわ」

「森遥人……」鈴木莉緒はその名前を呟く。「なんだか聞き覚えがあるような」

浅野静香はふんと鼻を鳴らす。「九星市の人間なら誰でも知ってる名前よ」

そして続けた。「去年、彼が不治の病にかかって、もう長くは生きられないってことが暴露されたの。もともと彼女がいたらしいんだけど、それを知って海外に行っちゃったとか」

「要するに、死にかけの人間ってこと。彼と結婚するってことは、死人と結婚するようなものよ」

なるほど、それはかなり悲惨だ。

浅野静香は唇を尖らせた。「継母がいると実の父親も他人になるって言うけど、本当ね。あんたの継母、あなたを未亡人にさせようって魂胆よ」

「彼が死んだら再婚できる」

浅野静香は目を丸くした。「いや、本気で考えてるの? その男、もう病状が末期なんでしょ? 今頃どんな酷い見た目になってるか。それに、このタイミングで結婚相手を探すなんて、死ぬ前に跡継ぎを残したいって魂胆に決まってるじゃない」

「こんな時にこんなことする人なんて、変態よ!」

鈴木莉緒は静かに言った。「でも、もらえる額が大きい」

「……」

「それに、彼が死んだら私が財産を相続できる」鈴木莉緒は淡々とした表情で言う。「そしたらお金も自由も手に入る。どれだけ多くの人が羨むことか」

浅野静香は呆気にとられた。「あなた、もしかしてショックで頭おかしくなった?」

「なってないわ」鈴木莉緒は真顔で答える。「よく考えたの。愛情なんてものはお化けと一緒。噂には聞くけど、見たことはない。だからもう追い求めるのはやめる」

「それに、私たちがこんなに必死に働いてるのって、少しでも多くお金を稼いで、経済的自由を手に入れるためでしょ? 今、近道があるのに、どうしてそっちを選ばないの?」

浅野静香は言った。「……なんでか、妙に理にかなってる気がする」

鈴木莉緒は笑った。「だって、それが現実だから」

その夜、河野辰哉は他人のスマホから鈴木莉緒に電話をかけ、彼女を役立たずだと罵った。

電話を切ると、また別の番号でかけてくる。いくつかの番号を着信拒否し、とうとう彼女は電源を切った。

翌日、鈴木莉緒がスマホの電源を入れると、大量のメッセージが流れ込んできた。

そのほとんどが河野辰哉からで、ありとあらゆる罵詈雑言が並んでいた。

LINEのグループは炎上していた。一度も寝たことさえないのに、河野辰哉はその中で鈴木莉緒の胸は豊胸だの、色っぽい顔して清純ぶってるだのと、根も葉もない噂を流していた……。

とにかく、一言一句が耐え難いほど酷かった。

鈴木莉緒は深呼吸する。起こったこと全てに意味があると信じよう。

神様が、一日でも早くクズ男の正体を見抜けと、あの光景を見せてくれたのだ。

彼女は鈴木康平に電話をかけ、彼の提案を受け入れると告げた。

父娘が森家の大邸宅に着くと、森遥人の姿はなく、彼の両親が対応した。

鈴木莉緒が森遥人との結婚を承諾したと知り、彼らは隠しきれないほど感激していた。

鈴木莉緒の要求はただ一つ、まず入籍すること。

理由は、法的に認められたいから。

結婚式に関しては、必要ないと言った。

相手はもちろん異論はなく、むしろ彼女が結婚を嫌がるのではないかと心配していたくらいだ。

双方の意見は一致し、森様のお父様はすぐに市役所の職員を自宅に呼び、婚姻届の手続きを済ませてしまった。

その時になって、鈴木莉緒は森遥人の——写真を目にした。

写真の男は浅野静香が言った通り、眉目秀麗で、特にその目は深く力強く、人を惹きつけるかのようだ。

こんな極上の男も、余命いくばくもなければ、自分に回ってくることもなかっただろう。

婚姻届が鈴木莉緒の手に渡される。彼女は合成されたものとはいえ、そのツーショット写真をじっくりと眺め、まあいいかと妥協した。

森様のお母様がキャッシュカードを取り出して鈴木莉緒に渡す。結婚式は挙げないが、結納金はそのまま。さらに、生活費として別の一筆もくれた。

とにかく、気前が良く、その額は鈴木莉緒にカード自体が重く感じられるほどだった。

彼女は断ることなく、堂々と受け取った。

再び婚姻届に目を落とし、「森遥人」の三文字を見つめる。あの男は、両親に自分を「売られた」と知ったら、どんな気持ちになるのだろうか。

父親と共に森家の大邸宅を後にすると、父親は満面の笑みで、とても嬉しそうだった。

「森家から、かなりの見返りがあったんでしょう」

鈴木康平は一瞬固まり、不自然な表情で言った。「何を言っているんだ」

「もう演技はいいわ」鈴木莉緒は立ち止まり、彼を見つめた。「あなたたちにメリットがなければ、私のことなんて思い出しもしなかったくせに」

鈴木康平の顔に気まずさが浮かぶ。「莉緒……」

鈴木莉緒は手を挙げて、彼の綺麗事を聞きたくないという意思を示した。

彼女は先に歩き出し、淡々と言った。「これで最後よ。もう、連絡してこないで」

浅野静香は、彼女が本当に森遥人と結婚したと知り、その場でぐるぐると回り始めた。

だが、残念ながらもう後の祭りだ。後悔はできない。

「あんたのお父さん、本当に酷い。火の穴だってわかってるのに突き落とすなんて。あんたも馬鹿よ、なんでそんなあっさり入籍しちゃったの? もし彼があなたを虐待したら、籍を入れてなかったら逃げられるけど、先に入れちゃったら、殺されそうになっても逃げ場がないじゃない!」

浅野静香は焦りと怒りと心配で、目を赤くしていた。

親友が怒ってくれていることに、鈴木莉緒の心は温かくなる。彼女は笑って浅野静香を慰めた。「籍は入れたけど、彼の前に顔を出すつもりはないわ」

浅野静香は彼女をじっと見つめる。

鈴木莉緒の目は悪戯っぽく輝いていた。考えは少々悪辣すぎるかもしれないが、事実でもある。

「彼、来年の二月まで生きられないって言ってたでしょ? あと三ヶ月もない。それまで隠れてて、彼がもう動けなくなったら、顔を出しに行くの」

鈴木莉緒の考えは甘かった。現実は残酷だった。

その言葉を口にしてから数日も経たないうちに、彼女の元に使いの者が現れた。

「森様が、奥様にお会いしたいと仰せです」

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