夫との結婚が偽装だったと知った後、私は御曹司からの結婚の申し出を受け入れました

夫との結婚が偽装だったと知った後、私は御曹司からの結婚の申し出を受け入れました

渡り雨 · 完結 · 18.3k 文字

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紹介

竹安言を最も愛したあの年、私は港市の誰もが羨む存在だった。

人々は私のことを、父とアヤンの掌中の珠だと呼んだ。

私はこの港市で最も尊い妊婦だったのだ。

しかしクリスマスの直前、アヤンを驚かせようと訪れた私は、信じられない光景を目にする。アヤンが、父の愛人の娘である和沢雨子の頬にキスをしていたのだ。

彼の仲間たちは、和沢ゆる子と偽装結婚までしてのけるなんて、大した手腕だと彼を褒めそやしていた。

「偽装結婚…?」私は眉をひそめた。

竹安言は周りの者にこう言っていた。「ゆる子は何でも持っている。だが雨子は二十年以上も私生児だった。俺が埋め合わせてやらなきゃ」

私は絶望に打ちひしがれながらそのクラブを後にし、携帯に届いていた謎のメッセージに返信した。

【私の子供の、名義上の父親になってくださるなら、お受けします。】

チャプター 1

 クリスマスイブ 。港市に舞う雪は、どこか気怠げだった。

 和沢家の別荘では、使用人たちが最後の金色の星をクリスマスツリーに飾り付けようと、慎重に作業を進めている。

「奥様、旦那様がこの手作りのプレゼントをご覧になったら、きっと狂喜なさいますわ」

 お手伝いの山田さんは、羨望の眼差しを私に向けた。

「この港市で知らぬ者はおりませんもの。竹安さんと和沢様が、奥様を目に入れても痛くないほど溺愛されていることは」

 私は手の中にある、精巧なダークブルーのベルベットケースを愛おしげに撫でた。中には三ヶ月かけてようやく競り落としたアンティーク時計、そして一枚の妊娠検査報告書が眠っている。

 子供の父親である彼に、最高のサプライズを用意するつもりだった。

 赤ちゃんは順調で、すくすくと育っていると。もうすぐ私たちに会いに来てくれるわよ、と。

 ブブ、とスマホが震え、SNSの通知が画面を埋め尽くす。

『ゆる子姉さん、メリクリ! 今日もお義兄さんに愛されまくりだね!』

 私は口元を綻ばせ、「あなたもね」と短く返信すると、車のキーを掴んだ。誰にも告げず、会員制クラブ『繁花』へと車を走らせる。

 竹安言は今夜、接待があるから帰りは遅くなると言っていた。

 けれど、私は待ちきれなかったのだ。私たちの結晶が今どんな姿か、一刻も早く彼に見せたくてたまらなかった。

 クラブ最上階のVIPテラスは、身を切るような寒風が吹き荒れている。

 コートをきつく合わせ、角を曲がった瞬間――私の足は、まるで釘で打ち付けられたかのように動かなくなった。

 仄暗いブラケットライトの下。私が三年間愛し抜いた男が、一人の女を手すりに押し付けていた。

 彼の長い指が女の髪を梳き、貪るように唇を重ねている。その仕草は、私に対するそれよりも遥かに情熱的で、愛おしさに溢れていた。

 女がわずかに横を向く。灯りに照らされたその顔を見て、私は息を呑んだ――和沢雨子。

 母を死に追いやった浮気相手、紀ノ川蘭の娘。私の、腹違いの妹!

 全身の血が逆流し、握りしめたベルベットケースが焼け付くように熱い。

 怒鳴り込もうと足を踏み出したその時、個室のドアが開き、竹安言の幼馴染たちが姿を現した。彼らは紫煙を燻らせながら、目の前の光景を見ても眉一つ動かさない。

「おや、竹安様。相変わらず手が早いですな」

 幼馴染の豊田は煙の輪を吐き出すと、艶めかしい視線を二人に絡ませた。

「和沢様が紀ノ川蘭を屋敷に入れたかと思えば、お前は和沢雨子を囲い込むとはね。和沢家の美しい母娘を、舅と婿で仲良く分け合うたぁ。この両手に花、俺たちからすりゃ羨ましい限りだよ」

 和沢雨子は恥じらうように竹安言の胸に顔を埋め、身じろぎもしない。

 竹安言は彼女を突き放すどころか、甘やかに微笑んだ。私が一度も聞いたことのないような、優しい声で。

「雨子は海外で苦労したんだ。俺が存分に可愛がってやるのは当然だろう」

 別の男が感嘆の声を漏らす。

「お前、本気ですげぇよ。こないだ和沢ゆる子のやつ、お前のキスで腰抜かしてトロトロになってたぞ。どうりで、あっさり孕ませられるわけだ。責任なんか取る気もないくせに」

「全くだ、竹安言は大したタマだよ」

 また別の男が声を潜める。その口調には、嘲りと愉悦が滲んでいた。

「雨子のために和沢グループの資産を取り返すって、よくもまあそんなシナリオ描けたもんだ」

「誰が想像できる? 去年、港市を騒がせたあの『世紀の結婚式』が、和沢ゆる子とかいうお花畑女との偽装結婚だったなんてな」

「和沢ゆる子は私生児を一番軽蔑してたはずなのに、自分のガキも隠し子になる運命とはね」

 その言葉は、空を覆う雪よりも冷たく、瞬時に私の心臓を凍てつかせた。

 偽装、結婚?

 私はプレゼントを死に物狂いで握りしめたまま、立ち尽くす。全身が氷のように冷たかった。

 どういう……こと?

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六年間、身を粉にして尽くしてきた日々は、何の意味もなかったのだ。

絶望の中で目にしたのは、かつて母が手にした科学界の最高栄誉であるトロフィー。
その輝きが、私に本来の自分を思い出させた。

私はエプロンを脱ぎ捨て、白衣を纏う。
もう誰かの妻でも、母でもない。一人の科学者として、世界を驚かせるために。

数々の賞を総なめにし、頂点に立った私を見て、元夫は顔面蒼白で崩れ落ちた。
震える声で私の名前を呼び、足元に縋り付く彼。

「行かないでくれ……君がいないと、俺は……」

かつて私を見下していたその瞳が、今は絶望と後悔に染まっていた。
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