第2章

黒いセダンの車内で携帯電話が震えた。小野良介の一番の懐刀である井上健は、二度目のコールで応答した。

「井上健だ」

「会計士が病院から逃げた。探し出せ。奴は我々が必要なものを持っている」

「山崎達也の女はどうします?」

「山崎達也の女だと?」

「病院の記録では、山崎達也と一緒に入院した妊婦がいます。竹内友奈。家族の緊急連絡先として記載が」

電話の向こうで沈黙が流れた後、小野良介の殺意を帯びたほど静かな声が響いた。

「井上健、その女を今夜中に見つけ出せ」

狩りが始まった。

一方、病室で山崎達也は、説明のつかない奇妙な胸の痛みを抱えながら、C市のスカイラインを眺めていた。

「森田悠斗」と、彼はベッドの傍らに座る側近に言った。

「俺を助けてくれた女を、探し出してくれ」

カードゲームに興じる女性たちの賑やかな声が、エスプレッソと焼きたてのパンの豊かな香りと混じり合っていた。

竹内友奈は深呼吸を一つして、女性たちの集会室のドアを押し開けた。

「松本薫さん、ようこそ!」

銀髪の婦人が彼女ににっこりと微笑んだ。

「さあさあ!ちょうど妊娠中の適切な栄養について話し合っていたところよ」

偽名を使って松本薫となった竹内友奈は微笑みながら椅子に腰を下ろし、今や明らかに丸みを帯びた自分のお腹に無意識に手をやった。

三ヶ月――警察庁からの召還命令を逃れ、山崎家の保護区域に身を隠してから、三ヶ月が経っていた。

「ありがとうございます、宮本美咲さん」と竹内友奈は応えた。

宮本美咲は彼女の手を軽く叩いた。その温かい茶色の瞳は母性愛に満ちている。

「もう安全よ。ここの男たちは子供の守り方を知っているから。特に山崎家はね――ご近所の母親たちを決して危険な目に遭わせたりしないわ」

竹内友奈は胸が締め付けられる思いだった。彼女たちが慰めている「暴力的な夫から逃げてきた哀れな妻」が、実は彼らの家族全体を破滅させかねない証拠を運ぶ警察庁の捜査官だとは、この親切な女性たちは想像だにしないだろう。

「夫が……」

竹内友奈は声を震わせた。

「暴力を振るう人だったんです。妊娠がわかった時、逃げなければと思いました」

同情のため息が輪の中に広がった。

若い母親が竹内友奈のもう片方の手を握った。

「ここでは誰もあなたを傷つけたりしないわ。山崎家の男たちが、必ずそうしてくれるから」

竹内友奈は感謝するように頷きながら、心の中では冷静に状況を分析していた。この住宅地の山崎家に対する忠誠心は、彼女の予想を上回っていた。

夕方のスーパーで、竹内友奈はベビー用品売り場を眺め、小さな服を選んでいた。ピンクのドレス、青いジャケット――数ヶ月後には自分の赤ちゃんを抱いている姿を想像し、思わず口元が綻んだ。

突然、首筋の産毛が逆立った。

長年の警察庁での訓練が、悪意のある監視を即座に警告した。竹内友奈は平静を装って買い物を続けながら、周辺視野で辺りを探った。

三列向こうの通路に赤毛の男が立っていた。栄養成分表示を読んでいるふりをしているが、その視線は彼女に固定されている。

小野家の人だ。

竹内友奈は胸の十字架のペンダントを握りしめ、心臓が激しく鼓動した。中の証拠は、絶対に小野家の手に渡してはならない。

赤毛の男――井上健――は、何気なく買い物をしている風を装いながら、ゆっくりと近づき始めた。

竹内友奈が退こうと身構えた、まさにその時、三人の若い男たちが不意に彼女の隣に現れた。

「お姉さん、このベビー服、可愛いですね」

黒髪の青年、石川大輔が微笑みかけ、さりげなく彼女と井上健の間に体を割り込ませた。

残りの二人――亮と翔太――は素早く散開し、彼女を守るように円陣を組んだ。

竹内友奈には彼らに見覚えがあった。普段、近所の警備巡回を担当している山崎家の若い組員たちだ。

井上健は面倒なことになると察し、前進を止めた。

石川大輔は井上健の方に向き直り、即座に笑顔を消した。

「おい。この辺りはお前らみたいな奴を歓迎しねえんだよ」

「ただの買い物だ、落ち着けよ」

井上健はそう言ってにやりと笑い返したが、その手はジャケットの内側へと動いた。

亮が威嚇するように一歩近づいた。

「他所で買い物しな。今すぐ」

空気に危険な火花が散った。もし井上健が下手に動けば、この三人が即座に襲いかかるだろうと竹内友奈には分かった。

井上健は状況を判断した。山崎家の縄張りで揉め事を起こせば、全面戦争の引き金になりかねない。彼は悪態をつき、しぶしぶと立ち去った。

石川大輔は振り返り、再び笑顔を浮かべた。

「お姉さん、もう大丈夫ですよ。ここでは、俺たちが全ての母親と子供を守りますから」

竹内友奈は深く心を揺さぶられた。

「彼らは私を守ってくれている……私が誰なのかも知らずに」

午後十一時、山崎家本部の地下室。

中村大和はデスクに座り、卓上ランプの明かりだけが書類の山を照らしていた。壁には組織図や敵対勢力の分析マップがびっしりと貼られている。

「何かわかったか」

中村大和は入ってきた部下の村上康平に尋ねた。

「ボス、あの会計士の女、竹内友奈が姿を消しました」

村上康平はファイルを置いた。

「さらに重要なことに、彼女の業務用コンピューターからいくつかのファイルが紛失していることが判明しました」

中村大和の目が細められた。

「何のファイルだ?」

「カジノの資金洗浄の流れを示すバックアップ記録です。それに、政治家への支払いを示す領収書もいくつか」

中村大和の血が瞬時に凍りついた。その証拠は、ファミリー全体を破滅させかねない。

彼は尋ねた。

「彼女の足取りは?」

「三ヶ月間、市中をくまなく探しましたが、手がかりはありません。まるで煙のように消えてしまいました」

もう一人の部下、渡辺颯太が首を振った。

中村大和は立ち上がり、部屋を歩き回った。山崎達也の記憶喪失は、彼がファミリーの支配権を握る絶好の機会を与えてくれた。だが今、彼にとって命取りになりかねない証拠を握っている女がどこかにいる――それは彼にとって最大の脅威だった。

「捜し続けろ」

中村大和の声は不吉な響きを帯びていた。

「彼女は知りすぎている。ボスが今の状態では……」

彼は言葉を切り、野心がその目にきらめいた。

「そろそろ、もっと頭の切れるリーダーシップが必要な時かもしれんな」

村上康平と渡辺颯太は顔を見合わせた。二人とも中村大和の言わんとすることを理解した。

「承知しました、中村さん」

村上康平は頷いた。

「必ず見つけ出します」

中村大和は再び椅子に腰を下ろし、敵対勢力の分析チャートを睨みつけた。まさか行方不明の会計士が、ファミリーの保護区域のど真ん中に隠れているとは、彼も想像だにしていなかった。

竹内友奈は小さなアパートの窓辺にあるロッキングチェアに座り、はっきりと丸みを帯びたお腹を優しく撫でていた。

遠くのイタリアンレストランから温かい民謡が流れ、近所の人々の笑い声と混じり合う。夕暮れ時のこの住宅地は、家庭の温かさに満ちていた。

十八ヶ月に及ぶ潜入捜査の中で、彼女が心から安全だと感じたのはこれが初めてだった。

「赤ちゃん」

竹内友奈はお腹を優しくさすった。

「ここが私たちの家なのかもしれない。あなたのお父さんは私たちのことを忘れてしまったかもしれないけど……この人たちが私たちを守ってくれる」

この温かい住宅地で子供を育てることを想像した。彼に言語を教え、宮本美咲の腕の中で成長させ、保護された病院で医療を受けさせる……。

しかし、その時、理性が再び頭をもたげた。竹内友奈は呟いた。

「私はこれを正当化しようとしているだけ?それとも本当に自分の居場所を見つけたのかしら?」

彼女は十字架のペンダントに触れた。中の証拠はまだ存在し、彼女に温かさを与えてくれたこのファミリーを破滅させる力を持っている。

その矛盾が、彼女の心を引き裂いた。

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