デブ女のエミー賞復讐記 ~6ヶ月契約で掴んだ輝かしい舞台~

デブ女のエミー賞復讐記 ~6ヶ月契約で掴んだ輝かしい舞台~

拓海86 · 完結 · 26.8k 文字

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紹介

愛とは影に隠れることだと信じていた私。彼の脚本を書き、借金を払い、「闇のミューズ」として生きていた。あの雨の夜、彼の言葉を聞くまでは「あのデブ豚?ただの練習台よ」

メディア帝国の王との6ヶ月契約。完全なる変身と引き換えに、偽の婚約者を演じること。

復讐は成功した。エミー賞を手にした私を、世界中が見つめていた。だが、彼の腕の中で気づいてしまった。彼は偶然私を選んだのではない。

すべてを失う前から、彼は私を知っていたのだ。

チャプター 1

 氷の鞭のような雨が、ホテルのガラス張りのファサードに激しく打ちつけていた。私はまだ温かいレポートを胸に抱きしめたが、安物のレインコートは役に立たず、黒いスーツに水が染み込んでくる。濡れた生地が九十キロ近い私の体に張り付き、一歩一歩が重く、ぎこちない。あの華やかな女性たちとの間に横たわる溝を、絶えず思い知らされるようだった。

 今夜は、統合メディアが主催する『西海岸サウンド』の祝賀パーティーだ。和也の番組が、テレビ賞 にノミネートされたのだ。彼の秘密の恋人として、そして三年間ゴーストライターを務めてきた者として、本来なら私も彼の隣にいるべきだった。彼が、私たちの関係を隠し通そうとさえしなければ。

「お前みたいな体で隣に立たれたら、笑いものになる」

 三ヶ月前の彼の言葉が、鋭く、残酷に頭の中で響いていた。

「絵里、この業界がどれだけ見た目重視か分かってるだろ。ちゃんとした時期を見つけるから、な?」

 でも、あの甘い言葉の数々はなんだったの?

『君の才能に惚れてるんだ。見た目なんて表面的なものさ』

『キャリアが安定したら、堂々と君と結婚する』

『俺には、どんなスーパーモデルより君が一番綺麗だよ』

 全部、嘘だ。

 三年間、影から彼を愛し、彼の脚本を書き、後始末をし、ギャンブルの借金を自分の貯金で肩代わりさえした。そして今も、土砂降りの中、彼のために使い走りをしている。

 VIPラウンジのドアに手をかけたその時、中からの声に血の気が引いた。

「本気で言ってるの、和也? 毎晩あんなデブとヤるなんて、悪夢でも見ない?」

 甘ったるいのに毒々しいその声は、天使のような顔と悪魔の心で有名な新人お天気キャスター、堀田里奈のものだった。

 和也の笑い声が、氷のつるはしのように私の心臓をまっすぐに突き刺した。「里奈、暗闇の中じゃ女はみんな同じだよ。それに……」彼は声を潜めたが、その声は嫌悪感を滲ませながらはっきりと届いた。「あんな必死なデブは、どんな扱いをされても感謝するだけさ。この三年間、俺のために数えきれないほどの脚本を書いてくれたけど、一銭も要求しなかった」

「じゃあ、ただ利用してるだけってこと?」里奈の笑い声には、悪意に満ちた喜びが混じっていた。「最高ね、和也」

「資源の有効活用って言うんだよ」彼の口調はあまりに素っ気なく、そして、底抜けに冷たかった。「彼女の才能と、俺の顔――完璧な組み合わせだろ。でも、君は……」

 濡れたキスの音と、里奈の甘く、誘うような吐息が聞こえた。

「俺の腕にいるべきなのは、君なんだよ、里奈。『西海岸サウンド』がテレビ賞を獲ったら、あいつは捨てる。そして俺たちは公表するんだ。あいつはただの……」彼は一瞬言葉を切り、軽蔑に満ちた声で続けた。「練習台だよ。あの脂肪の塊を見るたびに吐き気がするけど、仕方ないだろ? めちゃくちゃ使えるんだから」

 練習台。

 その言葉が胸の中で反響し、私からすべての空気を奪い去った。

 三年間が走馬灯のように駆け巡る。徹夜で脚本を書き、重役たちとの揉め事を収拾し、自分の貯金で彼の金銭トラブルを解決し、これが目に見える献身だと思って彼を愛してきた日々……

 彼にとって、私はただのリソース。練習台。使って捨てるだけの、ゴミ。

 今まで経験したことのないほどの怒りが、血管の中で燃え上がった。私は重いドアを、力任せに押し開けた。

 暖かく乾いた空気と、高級なシャンパンの香りが私に降りかかった。和也は豪華なソファに里奈を押し倒し、スカートの中に手を滑り込ませていた。彼女は彼の腰に脚を絡ませ、その手つきに熱心に応えている。

 部屋には彼らの友人たちが大勢いた。彼らの笑い声は、私を見てぴたりと止んだ。

「和也」私の声は、私自身の嵐で震え、嗄れていた。「頼まれてたレポートよ」

 二人は素早く離れた。和也の目に苛立ちが閃いたが、すぐに見慣れた偽りの、魅力的な笑顔を浮かべた。大股でこちらへ歩み寄り、目に警告の色を浮かべて声を潜めた。

「外は土砂降りだぞ。なんでここにいるんだ?」彼はフォルダに手を伸ばした。私はそれを、指の関節が白くなるほど固く握りしめた。「インターンに行かせろって言っただろ」

「全部、聞こえたわ」私は囁いた。その言葉はガラスの破片のように喉を切り裂いた。

 彼の顔がこわばり、そしてすぐに元に戻った。「絵里、びしょ濡れじゃないか。熱でもあるんだろ、馬鹿なこと言ってないで」彼は私の手からフォルダをこじ開けようとしながら、背後の観客たちのために引きつった笑顔を保っていた。

 里奈はドレスを直しながら、しなを作って歩み寄ってきた。その視線は、ずぶ濡れで太った私の体を、見せかけの同情を込めてなめ回した。「あら、可哀想に。まるで溺れたネズミみたいね」彼女は声を張り上げ、観客たちに向けて芝居がかった口調で言った。「普通のコーラはやめて、ダイエットコーラにした方がいいんじゃない? ダイエットに効果があるって聞くわよ」

 抑えられていた残酷な笑いの波が、ラウンジに広がった。何十もの視線が針のように私を突き刺し、完璧ではない体の隅々までを値踏みしているのを感じた。

 和也はついにレポートをひったくり、歯ぎしりしながら言った。「騒ぎを起こすな、絵里。家に帰れ。話は後でだ」彼の目は別のことを語っていた――身の程を知れ、と。

「話すことなんて、もうないわ」私の声は震えていたが、新しく、冷たい明瞭さを見つけていた。「三年間よ、和也。あなたの脚本を書き、後始末をし、借金まで払った……」私は彼の向こうにいる、嘲笑を浮かべた美しい顔々を見つめた。「……それであなたは私を『必死なデブ』って呼ぶの? あなたの練習台だって?」

 一斉に息を呑む音で、部屋から空気が失われた。和也は青ざめた。里奈が金切り声を上げた。「気でも狂ったの!? 和也がお金に困るわけないでしょ! 彼はトッププロデューサーよ!」

「そうかしら?」私は和也のパニックに陥った視線を捉えた。心臓は純粋な怒りのドラムのように激しく鳴り響いていた。「三ヶ月前に、ギャンブルの借金を返すために750万円の融資を懇願して土下座したのが誰だったか、みんなに教えてあげようかしら? あなたがサインした借用書なら、まだ携帯に残ってるわ」

 死のような沈黙。

 そして、部屋は爆発した。囁き声が潮のように押し寄せ、誰もが和也と私の間を視線で行き来している。携帯を取り出す者、口を覆う者、そして、目の前で繰り広げられる見世物に興奮の輝きを見せる者もいた。

 和也の顔は青ざめ、土気色になった。彼は一歩前に出て、低く、しかし脅迫的な声で言った。「気は確かか? 黙れ!」

「750万円?」群衆の中の誰かが信じられないというように繰り返した。

「なんてこと、本当にギャンブルを?」

 里奈もパニックになり、甲高い声で和也を擁護した。「でたらめよ! この狂った女が嘘を広めてるのよ――」

 VIPエリアの奥から、冷静で落ち着いた声がすべての混沌を切り裂き、瞬時に騒ぎを静まらせた。「どうやら、メインイベントを見逃してしまったようだ」

 群衆はすぐに道を空けた。影の中から現れたのは――統合メディアのCEOであり、帝国の真の後継者、藤原悟だった。完璧に仕立てられたチャコールグレーのスーツに身を包み、その一歩一歩が紛れもない権威を放ち、彼の存在は部屋全体を即座に静まり返らせた。

「悟!」和也は平静を装ったが、こめかみには汗が滲んでいた。「大したことじゃないんだ。ただ、不満を抱えた従業員が錯乱しているだけで……」

「錯乱?」悟は片眉を上げた。彼の鋭く知的な視線が私に注がれ、雨と、恥と、怒りの向こう側を見透かしているようだった。「私には、彼女は極めて明晰に見えるが。水原さん、でしたか? 今、和也に750万円の貸しがあると言いましたか?」

 私は深呼吸をして、顎を上げた。「はい。送金記録と、署名入りの借用書があります」

 悟の視線が和也に向けられた。刃のように冷たい。「会社のボーナスをギャンブルに使い? 部下から借金をする? 実に興味深い企業倫理だな」

 里奈が甲高い声で割り込もうとした。「藤原さん、これはすべて誤解です……絵里はただ、和也に振られて逆恨みしてるだけで.......」

「堀田さん」悟は彼女に一瞥もくれず、静かな命令口調で言った。「あなたの部署のパーティーは階下のはずだ。場所を間違えているのではないかね」

 里奈の顔が真っ赤に染まった。彼女は群衆の忍び笑いの中を逃げるように去っていった。

 和也は純粋な憎悪に満ちた視線を私に投げつけ、低く、必死な脅しの声で言った。「後悔するぞ、絵里。お前は二度とこの街で働けなくなる」

「後悔するのは、お前よ」私は彼の睨みつける視線を受け止めた。三年間分の傷と怒りがついに解き放たれ、私の声は静まり返った部屋に、はっきりと、鋭く響いた。「今日あなたが言った一言一句、その代償を払ってもらうわ」

 私は背を向け、頭を高く上げて歩き出した。背後の騒ぎは無視した。雨は降り続いていたが、私の心はこれ以上ないほどに澄み渡り、冷え切っていた。

 ホテルのエントランスで、一台の黒いロールス・ロイスが私の隣に滑るように停まった。後部座席の窓が下がり、藤原悟の鋭く、感情の読めない横顔が現れた。

「乗りなさい、水原さん」彼の口調は有無を言わせないものだったが、まるで命綱のように感じられた。「あなたの……将来について、話し合う必要があるようだ」

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