
紹介
妹の偽善と計算をすべて見抜いていたかおりは、かつての自分にはなかった『魔物意思疎通(コミュニケーション)』と『契約支配(コントラクト・ドミネート)』という二つの強力な力を手に入れていた。コノミが弱者を犠牲にしようと企む陰謀を衆人の前で暴いたかおりは、やられたらやり返すかのごとく、契約した魔物軍団の力でパーティの支配権を奪い取る。
厄災の魔物が押し寄せる中、コノミは恐怖に怯え隠れるばかり。そして、S級英雄と称えられたシェルドの正体もまた、彼の野望が『賢者の石』にあることだと暴かれる。かおりは賢者の石の欠片の力を借り、その石が種族の壁を越え、心と心を繋ぐためのものであるという真実を明らかにする。彼女は旧体制で虐げられてきた低級冒険者たちを率い、魔物と対等な契約を結ばせ、深淵の領主を見事撃退するという奇跡を成し遂げた。
戦後、かおりは『平等冒険者連盟』を設立。理不尽なランク制度を撤廃し、能力と品格を第一とする新秩序を提唱することで、あらゆる種族が共存する新時代を切り開いた。
それから十年。旧勢力の最後の抵抗も、新世界の固い結束の前にはあまりにも無力だった。真の平等と、互いへの尊重と団結が根付いた時代が、ついに幕を開けたのである。
チャプター 1
「お姉ちゃん、この大陸を救えるなら、なんだってします! そう思いません?」
その言葉を聞いた瞬間、私は手にしたC級冒険者証を危うく取り落としそうになった。
銀月冒険者ギルドの気だるい喧騒が嘘のように遠のき、雷に打たれたかのように意識があの血塗られた夜へと引き戻される——。
前世の私は、まさしくその一言のために、妹である赤石コノミの成功への道を飾る、ただの踏み台に成り下がったのだ。
私は目の前で聖母のような微笑みを浮かべる少女を、ただじっと見据えた。
彼女は今、怪我をしたF級冒険者の小百合のそばにしゃがみ込み、その手からは柔らかな治癒の光が溢れ出している。可憐な顔立ちと相まって、さながら『大陸の聖女』の降臨だった。
「コノミさんは本当にいい人だなあ。貴重なB級ヒーラーなのに、俺たちみたいな下っ端の治療までしてくれるなんて」
「かおりさんと一緒に【災厄級】の魔物を討伐しに行くんだって。本当に勇敢だよな!」
周りの冒険者たちから、そんな賞賛の声が聞こえてくる。
だが、今の私にはその全てが、緻密に計算され尽くした演技にしか見えなかった。
前世の記憶が、焼き印のように蘇る——。
三日後の『影の森討伐任務』で、コノミは私が気づかぬうちに、魔力回復薬を高濃度の魔物誘引剤へとすり替える。
影狼王が魔物の群れを率いて私を包囲した時、彼女は部隊に「戦略的撤退」を命じ、ギルドには私が「魔族に寝返った」と虚偽の報告をするのだ。
魔物に捕らえられた私は魔族の実験場へ送られ、半年もの間、地獄の責め苦を味わった。
その一方で彼女は、私が古代遺跡から命懸けで持ち帰った賢者の石の手掛かりを、正義を振りかざすS級冒険者シェルドに献上した。
二人はやがて『黄金の双星』と讃えられ、大陸を救った英雄のカップルとして、その名を歴史に刻んだ。
彼女が最後に『救世主』として私の前に現れた時、私はすでに人とも魔物ともつかぬ実験体へと成り果てていた。
「お姉ちゃん、見てください、この平和な大陸を。全て、価値あることでしたよね?」
彼女はいつもそうだ。『大義』という名の祭壇に、私の骸を躊躇いなく捧げることで、己の玉座を築き上げてきたのだ。
だが、この人生では、全てが変わる。
なぜなら私は、前世ですら持ち得なかった能力——『魔物との意思疎通』と『契約による支配』に目覚めたのだから。
「かおりさん? どうしたんですか? 顔色がすごく悪いですけど」
心配そうに私を見つめる声に、はっと我に返る。視線の先には、純真な瞳をしたF級の新人冒険者、小百合がいた。
その時だった。ギルドホールがにわかに騒がしくなったのは。
「大変です! 森の外れに猛毒蜘蛛の群れが出現しました! 冒険者が数名、取り残されています!」
受付嬢のリナが、悲鳴に近い声で叫んだ。
「B級以上の冒険者の、即時支援を要請します!」
その言葉に、他の冒険者たちは恐怖に顔を歪める。猛毒蜘蛛は厄介なことで知られ、その毒液は一瞬で人の神経を焼き切るのだ。
「私が行きます!」
コノミがすぐさま手を挙げ、大義に殉じるかのような表情で宣言した。
「B級ヒーラーとして、人々を救う義務がありますわ!」
「危険すぎます!」
小百合が案ずるように声を上げる。
「コノミさん、ヒーラー一人でどうやって猛毒蜘蛛と戦うんですか?」
コノミは一瞬思案する素振りを見せると、はっと顔を上げた。
「危険ですわね……でも、一つ方法を思いつきました!」
彼女は小百合に向き直り、慈愛に満ちた笑みを浮かべる。
「小百合さん。取り残された冒険者を救うため、あなたの力を貸していただけませんか?」
「もちろん、喜んで! でも、私なんてただのF級ですし……」
「大丈夫ですわ!」
コノミの瞳の奥に、昏い打算の光が宿ったのを私は見逃さなかった。
「あなたは森の入り口で少し物音を立てて、猛毒蜘蛛の注意を引いてくださればいいんです。奴らの注意が逸れている隙に、私とかおりお姉様で、取り残された方を救出しますから」
小百合の目が期待に輝いた。
「そんなことで、私もお役に立てるんですか?」
「もちろんですとも! 見てください、仲間を救うためなら、多少のリスクを負うのは当然でしょう? それに、そういった自己犠牲の精神こそ、冒険者が持つべき最も尊い資質というものですわ!」
コノミの言葉を聞きながら、私の胸中では静かな怒りの炎が燃え盛っていた。
やはり、この女の本性は一片たりとも変わっていない!
聞こえの良い言葉を並べてはいるが、要は小百合を死地に追いやろうとしているだけだ。
F級の初心者が猛毒蜘蛛の群れの注意を引けば、その先にあるのは十死零生の未来のみ。
だというのに自分は安全な後方に控え、小百合が蜘蛛の餌食になっている間に漁夫の利を得ようという腹積もりなのだ。
小百合が死ねば、彼女は「より多くの人を救うため、苦渋の選択をせざるを得なかった」と悲劇のヒロインを演じ、さらなる同情と名声を手に入れるだろう。
前世の私も、こうして一歩、また一歩と、彼女によって深淵へと突き落とされていったのだ!
「はい! 行きます!」
小百合は固く拳を握り締め、その瞳を決意に燃やす。
「仲間を救うためなら、私、なんだってします!」
「いい子ですわね」
コノミは満足げに頷くと、こちらへ向き直った。
「かおりお姉様、この計画、どう思われますか?」
彼女は、私がまだ前世のあの純朴な姉で、その『大義』とやらに容易く騙されるとでも思っているのだろう。
甘い。
私はゆっくりとコノミに歩み寄り、氷のような笑みを浮かべた。
「あなたの言う通りね。大陸を救うためには、誰かの犠牲が必要だわ」
コノミの目に、得意げな色が浮かぶ。
「では、お姉様も賛成してくださるのですね?」
「ええ、もちろん賛成よ」
パァン!
乾いた音が、静まり返ったギルドホールに響き渡った。
私に頬を打たれたコノミはよろめき、その白い肌はみるみるうちに赤く腫れ上がる。その瞳には、ただ驚愕の色だけが浮かんでいた。
「赤石かおり! あなた、気でも狂ったの!?」
「狂ってないわ。正気そのものよ」
私は小百合をぐいと引き寄せ、背後にかばった。
「さっき言ったでしょう? 大陸を救うためなら、なんだってするって」
「え、ええ……」
コノミは腫れた頬を押さえ、私の真意を測りかねている。
「結構な心がけだわ」
私は冷笑を浮かべ、彼女に詰め寄った。
「それなら、今回はあなたが囮になりなさい。なんたってあなたは高名なB級ヒーラー様で、F級の小百合よりずっと価値があるんだから。そういう『栄誉ある』任務には、あなたの方がふさわしいはずよ」
コノミの顔がさっと青ざめた。
「ち、違う! 私はヒーラーだから、前線には立てない! それに小百合さんは……」
「小百合が何?」
私の声は、絶対零度の冷たさを帯びていく。
「彼女の命は、あなたの命より軽いとでも言うつもり? それとも、さっきまでの美辞麗句は全部嘘だったのかしら?」
遠巻きに見ていた冒険者たちが、ひそひそと囁き始めた。
「確かに、コノミさんはB級だから生存能力は高いよな……」
「F級の新人を囮にするなんて、ちょっとやりすぎじゃないか?」
「コノミさん、さっき大陸のためなら何でもするって言ってなかったか?」
コノミは狼狽した。私が衆人環視の面前で、彼女の偽善の仮面を剥ぎ取るとは夢にも思わなかったのだろう。
「お姉様、誤解です! そういう意味では!」
「じゃあどういう意味なの?」
私は一歩、また一歩とコノミに迫る。
「はっきり言いなさい。なぜ小百合が死ぬべきで、あなたは後ろで高みの見物を決め込むべきなのか」
小百合は呆然と私たちを見つめていたが、やがて全てを悟ったようだった。
「コノミさん……あなたはさっき、私に死んでこいって言ってたんですか?」
その声は、か細く震えていた。
コノミは口をぱくぱくとさせるだけで、反論の言葉を見つけられないでいる。
私は小百合に向き直り、穏やかな声で言った。
「今日の教訓を覚えておきなさい、小百合。この世にはね、口では立派な大義を語りながら、自分の保身しか考えていない人間もいるのよ」
そして私はコノミに視線を戻し、嘲りを込めて言い放った。
「それだけの覚悟がおありなら、今すぐ森の外れに行きましょう。あなたが一番前を歩きなさい。本物の『自己犠牲の精神』ってやつを、その身にたっぷりと刻み込んであげるから」
コノミの顔色は死人のように白かったが、突き刺さるような大勢の視線に晒され、もはや後には引けなかった。
この人生では、もう二度と、誰一人として彼女の栄光のための踏み台にはさせない。
そんなに『犠牲』ごっこが好きなら、今度は自分がその味を、骨の髄までとことん味わうがいい。
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